オタク自由律俳句②
思わぬツイートが伸びた
虚妄垢の現実を想像してみる
金のあるニートだと思われているのか
未来都市の詳細を
予約を拒まれた、昼過ぎまで寝ていただけなのに
解釈一致か、パクツイか。
うちわを本来の使い方で使ってみる、涼しい
幸福の絶頂、気圧差の恐怖
ついさっきまで大きな歓声に包まれていた会場内に夢の時間は終わりだと知らせる無慈悲なアナウンスが流れる。
「これをもちまして本日の公演は終了いたしました。規制退場にご協力ください。」
スマホに緊急の連絡は来ていないだろうか。今日の晩御飯はどうしようか。終電は何時だっただろうか。
考えることは山ほどあるはずだが周りにそんな話をしている人はひとりもいない。
もっと重要な話題があるからだ。
数分前までの記憶をなくすことを恐れ、彼らの格好良かったところや面白かったところを同行者に話すことで精いっぱいの人ばかりだった。
斯く言う私も彼女たちと全く同じ行動をとっている。
そんな私の話を聞いている同行者はといえば、「DNAを残していこう」などと意味の分からない言葉を発し、自分の髪の毛を一本抜いてその場に落としていた。
何を馬鹿げたことを、清掃員が可哀想ではないか。という言葉を飲み込むのと同時に、アナウンスから退場の許可が下りる。
早く外に出てゆっくり話したいと思っていたが、いざ許可が下りると名残惜しいのは不思議だ。
そっと自分の髪の毛を一本抜いた。
馬鹿にしていた手前、同行者にこの行動がバレてはいないだろうかと少し緊張する。
彼女は前を向いたままファンサがどうだったなどと話している。
良かった。どうやらバレていないようだ。
しかし、安心したのもつかの間、あの恐怖が迫ってきていることに気付く。
この建物には楽しい記憶と引き換えに、気圧差による突風の恐怖に耐えなければいけないというルールがある。
気圧を高くして屋根を膨らませるなんて設計ミスではないのか、と無知な私は怒りすら覚えるが仕方ない。
浮かれ気味に数分前の記憶をひねり出している彼女たちは気づいているのだろうか。
気付いていて平気な顔を作っているのか、気付いていないのか。
そもそも恐怖に感じていないという可能性もある。
とにかく私も周りと同じ表情を作らなければならない。
こんなにも浮ついた空気の中に緊張した面持ちは似合わないからだ。
恐怖を隠そうと必死に数分前の記憶をひねり出してみる。
だが普段から余計なことを人より多く考えている私は、
“突風よりも、周りに緊張を悟られないようにすべきことのほうが恐怖かもしれない。”などという新しい緊張を生み出すだけだった。
係員が大きな声で注意を呼び掛けている。
周りの人々はどうしてこんなにも笑っているのだろう。
さっきまでこの建物内で行われていたことを考えればそんな疑問は簡単に解消されたが、それでもまだ不思議だ。
失敗すれば大きな恥をかくことになる。
それだけならまだいい。
私の失敗により次々と失敗が起こり、大事故になるかもしれない。
こんなとき起こりうる最悪の事態を想定してしまうのは私の悪いところだ。
緊張と恐怖を悟られぬよう必死に作り笑顔を浮かべながらそんなことを考える。
ついに私の番が来た。
息を止め足に力を入れる。
後ろからものすごい勢いで突風に背中を押される。
恐れていた気圧差によるそれを全身で受け止めた。
明らかに室内ではない冷たい空気を感じ、外に出たことを知る。
私の目の前は地面ではないし、周りを見ても倒れている人はいない。
どうやら私の挑戦は成功したようだ。
無事こけることなく突風を乗り切った。
この解放感をゆっくりと堪能したいところではあるが、いまだ続いている周りの浮ついた空気にやっと馴染むことが出来るのだからもちろんそっちが優先だ。
楽しかった夢の時間に、浮かれた人々の話声、さらに身の安全が保障されたことでさっきまであんなに恐れていた突風の恐怖も、演出の一つだったかのように楽しかった記憶に変わる。
今後自分の脳を信じすぎるのはやめようと誓い、同行者の”あのファンサは絶対に私だった”話に耳を傾けた。